マメハモグリバエ
Liriomyza trifolii (BURGESS)は1990年頃から侵入害虫として日本で問題になり,それ以来各方面で寄生蜂の調査が行なわれてきた。その結果,現在までに,在来の寄生蜂が少なくとも28種確認されている (
表)。
寄生蜂に関しては,一般向けの同定の手引きや図鑑の類が無く,同定は専門家に任せるしかない状況にある。しかも,マメハモグリバエ寄生蜂は一回のサンプリングで複数種を含む多数の個体が採集されるので,サンプリングのたびに多量の標本を全て専門家に送って同定依頼するのは能率的でない。そこで,分類の専門的知識がなくても誰でも同定できることを目標に,マメハモグリバエ寄生蜂の図解検索表を作成した。また,検索表の後に各種の標本写真を掲載し,標本写真で似たものを探して見当を付けた後,検索表で確認するという方法も採れるようにした。生物農薬として利用されている在来寄生蜂のイサエアヒメコバチ
Diglyphus isaea,および海外から導入されたハモグリコマユバチ
Dacnusa sibiricaも検索表に含めた。
同定を正確かつ容易に行うためには,何よりも標本の状態が良いことが必要である。標本にゴミやカビが付着していると同定に必要な部分が隠れて見えなくなり,また,腐った標本は壊れやすくなる上,変色して色彩パターンがわかりにくくなる。飼育容器の底に放置された寄生蜂の死骸はそのような状態になっていることが多いので,これを避けるためには寄生蜂を生きているうちに回収するのが最善である。
標本は乾燥でも液浸でも同定に差し支えないが,慣れないうちは乾燥標本を台紙に貼り付け,この台紙に昆虫針を刺し,いろいろな方向から標本を観察できるようにした方が良い。台紙は薄いケント紙を,高さ約1 cm,底辺3~4 mmの長三角形に切って作る。この台紙の尖った頂点に接着剤を少量つけ,虫の胸部側面か腹面に貼り付ける。このとき,接着剤が多すぎて虫体が接着剤に埋まってしまわないように,また,脚だけ又は翅だけに貼り付けて標本が落ちやすくならないように気をつける。
コバチ類を殺して通常の方法で乾燥させるとほとんどの場合虫体が変形し,ひどいときには全体的につぶれて生きているときとは雰囲気が大きく変わってしまうが,このような状態でも同定には支障ない。つぶれていない乾燥標本を作る場合には,生きたコバチ類をエタノールに入れ,殺虫して保存し,以下の2つの方法のいずれかを採用すると良い。すなわち,臨界点乾燥機で乾燥させるか,あるいは,エチルセロソルブまたはイソプロピルアルコールに約8時間浸し,その後キシレンに約5分間浸渣した後乾燥させる。
同定依頼のために送られてくるマメハモグリバエ寄生蜂の中には,しばしば,アブラムシに寄生するアブラバチ類や,マメハモグリバエの卵に寄生する蜂としては大きすぎるタマゴバチ類が混ざっている。これはサンプリングの際に,マメハモグリバエが侵入している葉についている他の昆虫を採集してしまったためと思われる。しかし,この検索表には,マメハモグリバエに確実に寄生していたと思われるものしか含まれていない。寄生蜂の科が同定できればおおよそ何のグループに寄生するのか予測できるが,ハチ目は全般的に科の同定が難しく,簡単に引ける検索表もないのが現状である。このため,サンプリングの際にはマメハモグリバエおよびこの寄生蜂以外の昆虫が混入しないよう極力注意しなければならない。
この検索表には,検索表作成の時点までにマメハモグリバエから得られた全ての寄生蜂が含まれているが,今後新たな種が加わる可能性は残っている。たとえ検索表でどれかの種に行き着いたとしても,それまで自分で同定したその種の標本と雰囲気が違うとか,標本写真と雰囲気が違う,といった場合には迷わず専門家に同定を依頼すべきである。
寄主であるマメハモグリバエ自体,体長2 mm程度の小さな昆虫であるので,当然その寄生蜂は寄主と同じかそれより小さく,微小なものばかりである。そのため,同定に際しては,高倍率が使え,解像度の高い顕微鏡が必要である。また,良い顕微鏡を使っても,しばしば,見たい部分がよく見えない場合がある。そのような時には,光を当てる角度を変えてみる,反射光でなく透過光で見てみる,多少分解してみる,あるいはプレパラートにする,といった工夫が必要となる。
色彩は標本の状態によって変わる可能性がある。特に,白色や黄白色の部分は変色しやすく,乾燥の状態によっては黒っぽく見えることがある。必ず他の特徴についても参照する必要がある。
体節:この検索表で扱った寄生蜂は,全てハチ目の中の細腰亜目というグループに含まれる。このグループのハチは,下図のように腹部第1節が胸部と密接に結合し機能上も外見上も1つのかたまりを形成して,腹部第1節と2節の間が細くくびれている。このため,一見すると胸部+腹部第1節が胸部,腹部第2節以後が腹部のように見え,以前そのように呼ばれていたこともあるが,最近では前者を中体節 (mesosoma),後者を後体節 (metasoma) と呼ぶのが一般的になっている。腹部第1節は特に前伸腹節 (propodeum) と呼ばれる。以上をまとめると以下のような式になる。
中体節=胸部+前伸腹節(=腹部第1節)
後体節=腹部-腹部第1節


触角の節:一般に触角の基部から第1節を柄節 (scape),第2節を梗節 (pedicel),それより先の節を鞭節 (flagellum) と呼ぶ。鞭節先端の1~数節が他の節より多少太く,一塊りになっている場合,それを棍棒状部 (club) と呼び,棍棒状部を除く鞭節(即ち,棍棒状部と梗節の間の節)を繋節 (funicle) と呼ぶ。棍棒状部を形成する節数は様々で,同属内でも種によって異なる場合がある。触角全体の節数が同じでも,棍棒状部の節数によって繋節の節数が変わる。

