Home


系統樹曼荼羅

—— チェイン・ツリー・ネットワーク ——

三中信宏(文)・杉山久仁彦(図版)

2012年11月16日第一刷刊行
2014年3月7日第二刷刊行 → 正誤表 *new*

NTT出版, 東京, 255 pp, 本体価格2,800円
ISBN:978-4-7571-4263-3

版元ページ書評等系統樹ウェブ曼荼羅|ブックフェア

発売中 → amazon楽天honto紀伊國屋書店TSUTAYAJBook


Phylogeny Mandala: Chain, Tree, and Network
Nobuhiro Minaka & Kunihiko Sugiyama
NTT Publ., Tokyo, 255 pp.
ISBN:978-4-7571-4263-3
Published in November 2012


2013年1月31日:〈紀伊國屋じんぶん大賞2012 読者とえらぶ人文書ベスト30〉「第9位」ランク入り




Porteño Gorrión con Sueño,
vos nunca me alcanzarás.
Soy rosa de un no te quiero,
ya nunca me alcanzarás.
(María)



目次

はじめに 3

プロローグ:世界を覆いつくす系統樹--そのルーツを探る 6

 1. チェイン,ツリー,ネットワーク 7
 2. グラフィクス言語の起源 7
 3. 体系化の慾望は「内なる声」である 10
 4. 民俗分類を形成する環世界 11
 [ポルピュリオスの樹の諸相 13]


第一部「生物樹」:多様な生物界の図像化 15


第1章 エルンスト・ヘッケルの生物時空系統樹 16

 1. ヘッケルと生命の樹 16
 [エルンスト・ヘッケルの系統樹の諸相 21]

第2章 進化の樹:チャールズ・ダーウィンの末裔 22

 1. ダーウィンと進化のダイアグラム 22
 2. 描かれるダーウィン進化論 27
 3. ダーウィンの系統樹は説明原理である 28
 [三浦梅園:動植分合總圖 31]

第3章 鎖と樹と網:系譜のとり得るかたち 32

 1. チェイン=存在の連鎖 32
 2. ツリー=生命の樹 36
 3. ネットワーク=広がる相関図 40
 [早田文蔵:高次元ネットワーク 41]

第4章 三次元系統樹のもつ新たなヴィジュアル性 42

 1. 系統樹の多次元化 43
 2. 三次元化(1):ヒュルブリンガーの鳥類系統樹 44
 3. 三次元化(2):ホートンの人類系統樹 47

第5章 分類体系は系統樹の時空的断面である 50

 1. 共時的な分類と通時的な系統:その相互関係 51
 2. 時空ワームとしての多次元系統樹 52

第6章 円から球へ:高次元系統樹を描く 58

 1. 立体系統樹から分類マップへ:ヒュルブリンガーの鳥類分類 59
 2. 球体系統樹とその時空断面 :ラムの試み 63
 3. 高次元グラフィクスと可視化 66

第7章 文字テクストと図像パラテクスト 68

 1. テクスト,パラテクスト,コンテクスト 68
 2. 規則的な系統樹 69
 2. 不規則的な系統樹 73


第二部「家系樹」:人間に直結する家系図 79


第8章 祖先の蔭に護られて:系統樹二千年の歴史をさかのぼる 80

 1. 神聖家系図:「エッサイの樹」とその図像学的系譜 80
 2. フィオーレのヨアキムの「生成の樹」 86
 3. 古代から中世にかけての家系図 88

第9章 家系図の図像学:生命の樹と唐草模様 92

 1. 家系図にからみつく生命の樹と唐草模様 92
 2. 家系図を支える文化的・社会的基盤 96
 3. 家系図から広がる中世の系統樹の図像世界 97

第10章 新大陸先住民の知識体系としての生命の樹 104

 1. オアハカに根づいた「生命の樹」 104
 2. コルドバに広がる「地理系図」 106
 3. 生命の樹と始元水,神話と創世記 108

第11章 人間の綱:血のつながりを視覚化する図像的伝統 114

 1. イスラーム世界の家系図 114
 2. 新大陸における家系図様式の変遷 116


第三部「万物樹」:森羅万象は系譜となる 125


第12章 知識の樹は枯れることなく生い茂る 126

 1. ルルスの「知識の樹」をルーツとして 127
 2. 百科全書の時代と新たな「知識の樹」 130

第13章 体系と知識を可視化:存在の連鎖からマップへの道 134

 1. 体系化の初期モデルとしての「存在の連鎖」 135
 2. 博物学コレクションの体系化 138
 3. ポルピュリオスの木:直線的チェインから複雑系ネットワークへ 141
 4. 自然の「かたち」を写しとる図像 148

第14章 文化構築物としての写本の系統と進化 158

 1. 写本系図学:無生物の伝承と系譜の推定 159
 2. ラハマン法の確立 160
 3. 『カンタベリー物語』の系統推定プロジェクト 163

第15章 時空的に変遷するオブジェクトの系統樹 166

 1. 「変化を伴う由来」はあまねく作用する 166
 2. 文化的構築物の系譜 167
 3. 言語の系統樹 176

第16章 万物系統樹:姿変わればあまねく系譜あり 180

 1. コンピューターの系統樹 180
 2. 企業体の系統樹 185
 3. 製品の系統樹 187
 4. 架空生物の系統樹 193
 5. 建築様式の系統樹 198

第17章 アートとしての系統樹 202

 1. 系統樹は美しいか 203
 2. 系統樹の背景世界観 204
 3. 系統樹アート 208

エピローグ:曼荼羅鳥瞰--系統樹を生みだす人間という存在 216

 1. データ可視化,情報グラフィクス,系統樹曼荼羅 217
 2. 図書分類と生物分類からみた情報視覚化 218
 3. チェイン,ツリー,ネットワークを言葉として使いこなす 219

系統樹リテラシーのために[杉山久仁彦] 223

 図形言語の歴史と系統樹 224
 系統樹リテラシーのための16 のキーワード 226

参考文献 240
索引 253


Alevare

多様なオブジェクトを分類・整理することは人間にとって根源的な重要性をもつ認知行為である.たとえば,地球上の生物を分類する生物分類学がアリストテレス以来もっとも古い生物学の基盤的分野であり続けたことは偶然ではない.「生物」というオブジェクトをヒトの観点から体系化することは,客体としてのオブジェクトの本質と属性を追究するというサイエンスの出発点だった.

この基本的方向性はけっして生物学だけに限定されてはいない.歴史言語学や古典文献学においても,「言語」や「写本」の変異と変遷を究明する研究が生物学とは独立に進展してきた.「生物」・「言語」・「写本」という一見なんの関係も持たないオブジェクトの多様性と変化は別々の学問分野において研究されてきた.しかし,あらためて通分野的に鳥瞰することにより,われわれは「変異・変化するオブジェクト」を解明するための方法論が収斂的に共通の要素をもっていることに気づかされる.

もっとも重要な共通要素は,いずれの分野も分類体系化のために「図像」を頻繁に用いてきたという歴史的事実である.つまり,分野を超えてわれわれはオブジェクトの多様性を直感的に理解し,他者とコミュニケートする目的で,系統樹・地図・ダイヤグラムのようなさまざまな図像表現をしてきたということである.ここでいう図像は単なる「絵」ではなく,むしろオブジェクトについて理解するための「図形言語」であると認識しなければならない.

文理の壁を越えて「図像」がオブジェクト世界の理解のための指針となるとき,われわれはその図形言語を読み解くためのリテラシーが必要になる.ちょうどピーテル・ブリューゲルの寓意画を読み解くために当時の人生観や世界観に関する予備知識が必要なように,過去一千年以上にさかのぼる分類体系化のための図像群の解読にもまたそれなりのリテラシーが読み手に求められている.

遺伝子情報にもとづく分子系統樹の知見が新聞の第一面を飾ることがまれではない昨今,「系統樹」を中核とする分類体系化のための図形言語は一般読者にとって無縁のものではない.また,過去数世紀にわたる古写本や彩色図譜の図版プレートは,芸術的・デザイン的の観点から見るならばその斬新な視点はイマジネーションの源泉となるだろう.

このような背景のもとに,今回の『系統樹曼荼羅』では古今東西の系統樹を中心とする「分類体系化」に関わる図像を蒐集し,カラーおよびモノクロ印刷での復刻と解説記事によって,サイエンスとアートのはざまに開花した「図形言語」としての系統樹(その他の図像)の歴史的様相をいま一度見直そうという意図がある.そして,生物を含むさまざまなオブジェクトに関する図像的理解の歴史を振り返り,その現代的意義を再考する.

[三中信宏記:2012年11月5日/2012年11月9日改訂]


Mi voz, en todas las voces
para siempre sentirás.
(Porteño Gorrión con Sueño)


Last Modified: 27 March 2014 MINAKA Nobuhiro