寒冷地の茶について
皆さんは寒冷地の茶と聞くと何を想像されますか?茶は熱帯起源のものだから寒冷地では栽培できない?日本でも暖地の静岡や九州で多く作られているので寒冷地にはない??
ところがどっとい,茶は日本全国で栽培されています.当然,「全国」なのですから東北全県,北海道もその中に入ります.最近,寒冷地の茶について少しばかり調べていまして,その一端を御紹介します.
研究の経緯と東北地方の茶
主に東北地方の茶について述べた記事がこちらにあります.これは,当初のトップページでした.分量が増えたこと,北海道からの問い合わせが増えたこと,真の寒冷限界は北海道にあるのではないかと思われるようになったことなどから,更新しました.
これまでに調査した場所は,東北地方太平洋沖地震及びその翌日の栄村地震(震度6×3回)により被害が発生した所も多く,心を痛めております.協力して頂いた方のご無事をお祈りしております.また被害に遭われた方にお見舞い申し上げるとともに、お亡くなりになられた方には、心からお悔やみ申し上げます。
ところで,復興構想で,職住分離と低地にバイオマス栽培というような話が聞こえてきます.被害地が南日本なら低地は水田に決まりという話になるところが,冷害地帯でもあるのと脱原発ということで,バイオマスの話が出て来たのではと考えます.水温が比較的高く,多量にあるなら,冷害地帯でも水田が良いと思います.それ以外の場所で,耕地面積が余り取れない所では,やはり技術も要りますが,収益の点で園芸作物(野菜,果物,花)が望ましいと考えられます.茶栽培も,少なくとも沿岸部で大船渡以南なら問題ない様です.大船渡市には,茶園,畦畔茶があちこちで見られるだけでなく,近年まで製茶工場がありましたし,現在でも隣町である陸前高田市に製茶工場があります.この工場では,市内農家ばかりではなく,隣接する大船渡市や唐桑町の受託加工もしています.それより北,岩手,青森の太平洋沿岸全域でも茶の栽培は問題ないと考えますが,実際の営農例を見ていません.このあたりで茶栽培を行う最大のメリットは,冷害に影響されないことだと思います.また,病虫害が少ない,味がよいなどとも言われています.製品重量が軽いのも良い点です.従来,茶は製造技術が必要なので,経験の蓄積がないところでは無理だと言われてきましたが,現代の製茶機械は殆どコンピュータ化されており,実際の茶産地では,メーカーのデフォルトの設定で運転している茶工場も多いという状況です.従って,この点は大問題では無くなりました.栽培をする際には,苗を植えてから収穫まで数年かかるわけですが,この間に製茶機の運転講習をしっかり受けておくということになると思います.なお,南九州のように大型機械を導入すれば,1人の作業者で10haは管理できます.あと,東北地方の現地調査報告等はこちらにありますのでご覧下さい.ちなみに,手揉み製茶は東北全県と北海道で行われていますが,近代的な製茶工場は上記のJA陸前高田の1軒が最北です(工場,畑共に,地震,津波の被害はなかったようです.TBS動画.).そこから南に向かうと,石巻市に4軒,村上市に10軒,大子町に40軒というように増加して,主要産地に繋がっていきます.
北海道の茶
これまでの研究で,北海道のかなり広い地域で茶栽培が可能であることが分かりました.百年に1度の大寒波が襲来したら分かりませんが,例年並みの寒さなら問題有りません.札幌辺りで簡単に栽培する要点を以下に記します.もちろん,地域により状況は異なりますし,細かな問題点も色々あり,これらについては別途,月刊「茶」誌上で詳しく検討しています.月刊「茶」2010年3月号に「極寒地で茶栽培は可能か?」,4月号に「極寒地における茶栽培と品種特性」,5月号に「極寒地適応系統の育成」というタイトルで掲載されました.下記のような補足情報のページも作りましたので雑誌記事ともどもご覧ください.2010年3月号補足,2010年4月号補足,2010年5月号補足.
北海道における茶の露地栽培の要点
苗の植え付け
- 暖地から苗を入手する場合や,(温)室内育苗のものを戸外に植出す時期は,5月下旬(=霜が降りなくなったら)とする.
- 道内の露地から移植する場合には,4月上旬(萌芽1カ月前)とする.
- 水はけの良い場所を選び,根が土中深く伸びることが出来るように配慮する.
- 挿し木後丸2年以上経った大苗が望ましい.定植後,葉数が半分になる程度に,枝葉の剪定を行う.ポット苗や根巻き苗で根を傷めないように植えた場合は軽く摘葉.
- 肥料好きではあるが,当初,施肥は4〜6月のみ.酸性の土が好きなので,アルカリ性になるものは避ける(石灰,苦土石灰,蛎殻,卵殻,熔燐,石灰窒素,尿素,珪カル,草木灰,硅酸加里など)
- 植付け後2年は冬期,敷わら,菰掛けなどをして防寒した方がよい.
以上に配慮すれば,ほぼ問題なく栽培できると思います.冬の寒さで落葉したり,枝先が枯れるかも知れませんが,秋までには回復します.運悪く,耐寒性の弱い系統を入手してしまった場合は,落葉〜回復を3年くらい繰り返した後,枯死することになると思います.寒害があまり出ないことを確認できたら,夏以降の施肥もしましょう.花が咲いたら,別の系統と交配して種子を取り,道産子を育てましょう.種子から育てると,その地の環境により適したものを見出すことが出来ます.
種子の蒔き方
- 種子はドングリなどと同じく,乾燥させると死ぬので,注意.
- 秋に収穫したら,すぐに畑にまいてしまうのが楽.5,6年はそのまま放置しておける場所に,株間5cm,畦間15cm程度のレイアウトを念頭に,堆肥や他のアルカリ性でない肥料を散布後,良く耕して苗床を予め作っておく.播種の深さは3cm.翌春,雪が溶けて,凍結や霜が無くなったら,雑草抑制と土跳ね防止のため,土が見えなくなる程度の薄い敷わらをする.種子が土の表面に浮き上がってくることがあるので,その場合は,埋め込んでおく.発芽は,翌年6,7月.発芽時には展葉せず,茶色い爪楊枝状のものが土から出てくる.その後,葉が開き,秋には5cm〜10cm位になる.挿し木苗と較べると弱々しいが,特に耐寒性が弱いわけではない(弱い個体もある).防寒は不要.発芽当年追肥不要.
- 発芽の翌年以降は上記「苗の植え付け」を参考にして管理.
- 成長は速くはないので雑草に覆われやすく,こまめに除草.敷わらが分解して苗に土はねがかかるようになったら補充.
- 数年後,生育の良いものの樹高が30cmを越えるようになったら,4月上旬に改植.この時,苗のサイズを揃えると良い.
北限の茶
「北限の茶」といった言葉が,様々なバリエーションを伴って世の中を徘徊しています.いわく,「北限の茶園」,「北限の茶樹」,「弧状仕立て茶園の北限」,「経済的茶栽培の北限」,「営利栽培の北限」,「近代的製茶工場の北限」… 野生植物なら,今までに知られている最北の自生地を北限と呼ぶことに何ら問題はありません.しかし,少なくとも,品種名の付いている栽培植物は,すべて人間が植えたものなので,今より少しでも北に植えれば北限と言えてしまいます.多年生のものの場合,冬越しが不可能な場所に植えられたものをいくらより北にあるといっても,北限とは言いにくいです.そこでまず,気象観測の平年値の統計期間である30年以上継続栽培されている場所を「栽培地」として認識しようと提案します(水野,2007).そして,その栽培地のうち,最も北にあるものを北限とするわけです.この観点からは,100年近く栽培されている古平の茶樹が北限と言うことになります.宗谷岬付近でも,茶栽培は可能と思われますので,ここに植えて30年経てば,日本の最北限ということになります.まあ,択捉島にあるカモイワッカ岬や宗谷岬の西北西の弁天島のことは,とりあえずおいておくとして… いずれにせよ,茶自体の耐寒性は,日本の沿岸部ではすべてOKと思われるので,この辺りでの北限は日本を飛び越して,ロシア領のどこかが東アジアに於ける真の北限となるでしょう.
寒冷限界
北限は古平ですが,冬は雪に覆われるので,茶樹体温はそれほど下がっていない可能性があります.30年以上の栽培があるこれまでの調査地点のうち,盛岡や黒石の茶樹が古平のものより低温に遭遇している可能性があります.あちこちの茶樹に温度計をくくりつけて何℃まで下がっているかを実測してみたいところです.北限に関しては議論がすっきりしている野生植物にも同じ問題があって,ヤブツバキの北限は夏泊半島ですが,寒冷限界は宮古市かも知れません.
おまけ(耐寒性ツバキ)
茶の沢山の品種のうち,どれが北海道に向いているかは,はっきりしません.一方,ツバキの品種の耐寒性についてはかなり詳しく調べられています.茶の研究もこうありたいものです.
- ダイジェスト版
- 詳細版
その他研究参考情報
現行版:2011年9月14日
改 版:2011年6月18日,6月7日,4月30日,4月11日,1月6日,2010年5月1日
初 版:2007年3月1日
メールアドレス:nmizunoアットマークaffrc.go.jp
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