寒さと茶の関係について(2010/4/13記載)
2010年3月30日の朝,各地で凍霜害が発生しましたので,
この項を追記しました.
アメダス牧の原観測点の最低気温は,
5時50分に-1.3℃でした.
研究所付近をあちこち見てみましたが,
かなり広い範囲で被害は見られました.
中心は牧の原で,特に東端が一番ひどいようでした.
御前崎や川根でも被害は見られましたが,
そんなにひどいものではありませんでした.
これは,見た範囲の達観によるものなので,
実際とは異なる可能性もあります.
茶の新芽は霜に当たったりして凍ると通常は枯れます.
但し,茶より早く萌芽する多くの植物では,
同程度の温度では全く問題ありません.
今回,問題が発生した茶畑の周囲でも,
様々な植物の健全な新芽が見られました.
以前から指摘しているように,
この様な事実は,茶の萌芽期耐霜性育種に光明をもたらすものです.
茶の育種関係者は,これまで耐霜性育種についてほぼ無関心で,
育種を念頭に置いた耐霜性比較試験も行っていません.
つまり,茶の新芽は凍れば必ず枯れるという大前提で,
耐霜性に強弱がある可能性については,
詳しく検討してきませんでした(古い品種の限定的な報告はある).
実験系の開発は簡単ではないかも知れませんが,
基本的には,こういった早期萌芽植物,各種茶品種・系統,
茶よりさらに寒さに弱いと考えられる熱帯植物を含めて,
実際に萌芽した切り枝を氷点下の温度に遭わせて生死を調べ,
全体像の中での茶の特性を明らかにすることが出発点でしょう.
育種の常識として,未選抜形質は分散が大きいものなので,
茶の品種・系統の中にも耐霜性の強弱はあると考えるのが妥当です.
違いがあれば,育種は可能です.
今回,或るさやまかおりの畑で,萌芽中にもかかわらず,
あまり被害が見られなかったという話も聞きました.
地形的要因等により助かっただけかも知れませんが,
耐霜性があるのかも知れません.
今後の展開に期待しましょう.
寒冷地の茶の生存に影響する厳冬期の耐寒性と,
萌芽期耐霜性は直接関係はないと考えています.
ある程度の相関関係は存在する可能性はあると思います.
同様にこれらと,夏期の低温下に於ける開花可能性,
果実の完熟可能性も直接の関係はないでしょう.
更に,低温微速生長(2〜10℃)とも無関係と思われます.
但し,萌芽期耐霜性は,もしかすると,
晩秋期の初霜耐性とは関連があるかも知れないと考えています.
これらのことから,以上に述べた,
茶の低温に関係する各種の特性は,萌芽期耐霜性とは,
とりあえず別個の物として考えるのが妥当と考えます.
寒冷地の茶について
皆さんは寒冷地の茶と聞くと何を想像されますか?
茶は熱帯起源のものだから寒冷地では栽培できない?
日本でも暖地の静岡や九州で多く作られているので
寒冷地にはない??
ところがどっとい,茶は日本全国で栽培されています.
当然,「全国」なのですから東北全県,北海道もその中に入ります.
最近,寒冷地の茶について少しばかり調べていまして,
その一端を御紹介します.
残念ながら,このテーマだけを追い掛けているわけではないので
ゆっくりしか進展していませんが,しばらくは継続予定ですので,
このページも徐々に拡充していきたいと思っています.
さて,とりあえずの情報提供として,今まで調べてきたものを
リストにまとめたものがありますのでご覧ください.
これらの中では,極力正確な場所と過去の報告を網羅するように努めましたので,
資料として役立つものと確信しています.
東北地方の茶
昔は東北一円で茶が栽培されていました.
今でも各地に茶畑とか茶園などと言うような地名が残っています.
実際に昔の統計を見るとかなり栽培されていたことが分かります.
茶の付く地名
- 盛岡市茶畑 昔からの茶が栽培されています.
- 弘前市茶畑 今はこの場所には茶はないそうです
- 仙台市若林区元茶畑 仙台のあちこちに茶樹はありますがここにあるかどうか不明.
- 須賀川市茶畑町
- 須賀川市森宿字茶畑
- 須賀川市雨田字光茶
- 二本松市茶園
- 猪苗代町字茶園
- 福島市茶屋下,茶屋,茶臼森,上鳥渡茶中,上鳥渡茶畑,山口茶畑,大笹生茶畑,飯坂町湯野茶畑,笹木野字茶呑田
- 会津若松にも茶に関係した地名があるらしい.
- 鶴岡市藤島町平形茶畑
- 福島県安達郡安達町米沢字茶畑
- 福島県伊達郡川俣町大字西福沢字茶畑
- 仙北郡中仙町北長野字茶畑
-
明治初期の茶生産量
明治10年全国農産表
| 国名 |
数量 |
国名 |
数量 |
国名 |
数量 |
国名 |
数量 |
国名 |
数量 |
| 駿河 |
783 |
大和 |
233 |
但馬 |
87 |
相模 |
28 |
若狭 |
10 |
| 山城 |
656 |
下総 |
218 |
加賀 |
77 |
備後 |
27 |
淡路 |
9 |
| 伊勢 |
632 |
安芸 |
201 |
周防 |
63 |
摂津 |
23 |
羽後 |
9 |
| 遠江 |
581 |
日向 |
182 |
上総 |
58 |
越前 |
17 |
出雲 |
8 |
| 陸前 |
575 |
紀伊 |
181 |
播磨 |
52 |
石見 |
17 |
甲斐 |
7 |
| 美濃 |
542 |
薩摩 |
168 |
美作 |
45 |
因幡 |
17 |
対馬 |
7 |
| 近江 |
438 |
常陸 |
161 |
阿波 |
40 |
越中 |
16 |
備前 |
7 |
| 土佐 |
430 |
筑後 |
156 |
筑前 |
38 |
飛騨 |
15 |
讃岐 |
5 |
| 武蔵 |
418 |
伊予 |
145 |
尾張 |
34 |
上野 |
15 |
志摩 |
4 |
| 丹波 |
366 |
三河 |
132 |
陸中 |
34 |
備中 |
14 |
佐渡 |
3 |
| 肥後 |
317 |
伊賀 |
123 |
磐城 |
34 |
羽前 |
12 |
隠岐 |
1 |
| 越後 |
258 |
大隅 |
121 |
河内 |
30 |
和泉 |
12 |
能登 |
0.7 |
| 豊前 |
252 |
豊後 |
114 |
伊豆 |
30 |
岩代 |
11 |
伯耆 |
0.4 |
| 肥前 |
247 |
長門 |
113 |
下野 |
30 |
丹後 |
11 |
安房 |
0.1 |
新茶業全書(1988)を略記
東北の国名を緑色で,冷涼・積雪地帯を水色で示しました.
貿易統計と生産統計の数字の乖離などが指摘されているように,
この頃の数字の精度はそれほど高くないようです.
信濃は掲載されていませんが,かなり広く茶園があり,
木曽谷と伊那谷のそれぞれ南部
(ここは,現在でもかなり生産がある),
北信地方などで生産が有ったと考えられています.
陸奥もありませんが,弘前の茶畑町にはいつ頃まで茶畑があったのでしょう?
ということで,結局明治10年の統計値としては陸奥以外の全東北の数字があることになります.
この中で寒そうな陸中で34t,岩代で11t作られているのは注目したいです.
数字ではわかりにくいので,地図に落としたものを示します(Mizuno&Ikeda 2007).

信濃については他のデータで補っています.また,
地図や
図化についても,
他の情報を利用しています.
ついでながら,2007年の栽培面積のデータもご覧ください.

国単位では,国の中にも暖かいところ,寒いところなど有り,
中々見通しがききませんが,全国農産表には,郡単位の数字も
掲載があります.東北諸国の郡単位の生産量を抜き書きしてみました.
こちらからご覧ください.
昭和初期 茶の栽培面積
たまたま目にしたこの情報も貴重なものだと思い,
転載しておくことにしました.
こちらからご覧ください.
東北地方の方にお願い
最初のお願いは,茶の木があるのをご存じでしたら,
このページの最後に書いてあるアドレスへメールを頂きたいと思います.
「(アットマーク)」は普通の「@」に変えてください.
メールアドレスが自動収集されて,
迷惑メールが送られてくるのを防ぐためにこの様なことをしています.
現在は,研究の初期段階で,
まずどこにあるのかをリストアップしたいと考えています.
次ぎは,茶の木をお持ちの方は,廃棄したりしないで,
ぜひ活用してくださいということです.
近くに茶工場がない場合に,自力で製茶するのはなかなか大変ですが,
茶の新芽は「野菜」として利用できます.
私の出身地にも茶の木はあったのですが,
野菜としての利用が可能だとは知りませんでした.
茶の研究をするようになって初めて食べたのですが,
「やわらかい」ことと「にがくない」ことに驚きました.
芽とはいえ木であるわけで,硬いのではと漠然と思っていましたが,
そうではありませんでした.
タラの芽とかコシアブラとかも食べる訳なので,
単なる思いこみです.
苦いに関しては,私は昔からお茶を濃くして,
苦味がある状態で飲んでいましたので,
これも単純に,同等の苦味という予断です.
ところが,実際に食べると,少しの苦味は感じられるものの,
たとえば,フキノトウなどと較べると,
苦味はないと言ってしまって良いレベルかなと思います.
では,どういう料理に使うかに関しては,
Web上にいろいろあるようですが,
お茶料理研究会
という団体のページにレシピが色々まとまって載っていました.
この団体もいろいろ本を出していますが,
他にもいくつか料理本が出ているようで,
こちらに
その例があります.
現在の職場は静岡なので,当然そこいら中に茶の木はあり,
いわゆるお茶の芽料理には,あちこちで出くわします.
食材として優秀なので,築地の特殊野菜を扱っている店に行けば,
いつでもあるそうです.
茶工場に頼んで製茶するのは,摘む労力だけですが,
これを人力で行うのはかなり大変です.
ただ,ちょっとだけ,試しに作って飲んでみたいということなら,
それほど大騒ぎではありません.
フライパンで軽く煎って揉むことを繰り返せば,
飲める茶を作ることが出来ます.
こういった「家庭製茶」の情報もWebにいろいろ掲載されています.
たとえば,
こちらの
5/19の項をご覧ください.
あとは,茶の花を生け花として使うことも良いですね.
とにかく,実際に色々利用してもらえば,
役に立たないものとして伐採されてしまうことはなくなると思います.
製茶をしてみたい方へ
もし,うちには茶の木はけっこうあるので,
ちゃんと製茶してみたいと考えられた方は,
手揉みを習得するのも方策でしょう.
もちろん,茶工場を建てても良い訳ですが,
ちょっとお金がかかりすぎます.
現在販売されているシステムは,ご多分に漏れずコンピュータ化されていて,
高度な運転技能は不要なレベルになっています.
中古もいろいろ流通しているようですが,
特に古い単体の機械を組み合わせて使う場合には,
かなりの運転知識が必要です.
この場合に,手揉みの知識や経験があると,
かなり役立つようです.
機械製茶について知りたい方は,
この本が良いかも知れません.
手揉みの情報もWebにいろいろありますが,
静岡県茶手揉保存会が出している,
「新手揉製茶法解説」という書籍もあります.
連絡先は,
こちらからさがしてください.
東北地方にある茶工場としては,
JA陸前高田のものが最北です.
宮城県の桃生町,河北町(双方とも現在は石巻市)にもあります.
福島県の南部の矢祭町,塙町などの方は,
隣町である,茨城県大子町の茶工場で製茶をしてもらっているようです.
かつては,大船渡市や南相馬市などにも,
茶工場がありました.
能代市や鶴岡市では最近まで手揉みが行われていました.
日本海側で最北の茶工場は,新潟県村上市に数多くあります.
若い人に本格的に茶について学ばせたいとお考えの場合には,
農業研修生という制度があります.
東北の茶の衰退原因
植物側の原因と社会的な原因とが考えられますが,
恐らく,社会的なものが大きかったのではないかと考えています.
農業経済学者で茶についての研究を広く展開されてきた
大越篤氏も主として社会的な理由であろうとされています.
種々考えられる理由のうち最大のものは品質というか,
茶種問題とでもいえるような事柄です.
現在普通に呑まれる煎茶は「緑」茶ですが,
東北で普通に作られていた煎茶は「黒」茶であったことです.
東北でごく最近まで自家製茶が行われていた檜山も,鶴岡も
このタイプの茶でした.
鶴岡で伺った話では,茶は「黒ければ黒いほどよい」とのことでした.
九州に多い「黒茶」が釜炒茶を意味するのと異なり,
この「黒」茶は普通の煎茶と同様な作り方をします.
つまり,「緑」茶に駆逐されてしまったのが,東北の茶業だったのだとおもいます.
東北地方にも近代的な機械製茶の工場がいくつもありますが,
ここで作られるのは当然「緑」茶です.
駆逐される過程では,「黒」茶は「緑」茶より評価が低いので,
価格が安く,収益性が悪いです.
収益の面で強力なライバルは養蚕でした.
いわゆる,養蚕ブームは,明治初期,大正8〜14年,
昭和30〜40年の3回ほどありましたが,
これらの時期に茶樹を抜いて桑を植えることが多く行われました.
逆に「緑」茶産地では,それまで自家製茶や小規模流通でまかなわれていた
「黒」茶の需要を満たすために,茶の生産力増大が見られたと考えられます.
特に昭和30年のインパクトは大きく,
農民層分解,兼業化とも相俟って,全国規模で自家製茶の大部分が
消滅したようです.
茶園面積の多い地方では製茶工場に生産が集約されましたが
自給用の栽培しか行っていなかったところでは,
費用がかなりかかることもあって,なかなか工場を造るところまでには
ならなかったのです.
以上「水野説」の一端ですが,これは現時点ではあくまで仮説に過ぎず,
これを種々の社会科学的データに基づききちんと証明して
科学にする必要があります.
一方,植物側の説明として,
東北各地できちんと茶の栽培が出来,収穫量や品質も確保できると言うことを
証明する必要があります.
しばしば言及される「茶の経済栽培限界は村上—大子線」という話は,
根拠がないと思います.
限界であることの証明データは見たことがありません.
村上—大子線以北に茶工場が少ないことは事実ですが,
それが経済的理由なのか,社会的理由なのか,植物学的理由なのかについては
現時点では何も証明されていないのです.
村上—大子線にしても,上述した「水野説」にしても現時点では単なる仮説です.
証明無しにあたかも真実のように語るのは科学者として無責任ですね.
月刊「茶」の記事の補足
寒冷地の茶について
(社)静岡県茶業会議所発行の
月刊「茶」に2007年4月号から12月号まで「寒冷地に育つ茶」というタイトルで連載をしました.
補足のページがありますので雑誌記事ともどもご覧ください.
(尋ね人)寺田由一様
東北電力の広報誌「白い国の詩」1989年2月号に,「北限の茶—東北の茶産地」という記事を書いておられます.過去の産地も含め,各地の情報を多数紹介し,論考されています.いろいろうかがいたいと思い,連絡を取ろうとあちこち問い合わせをしましたが,まだ果たせていません.昔会ったことがあるという方にはたどり着けて,いろいろ話を聞くことが出来ましたが,最近のことは分かりませんでした.何かご存じの方がありましたら,下記宛に連絡いただければ,有難いです.
月刊「茶」の記事の補足(2)
上記の連載記事に対して,国内外から様々な問い合わせを頂きました.その中で,現在茶が栽培されている場所よりもっと寒い場所ではどうか?というものが,かなりありました.この様な疑問に対する回答として,月刊「茶」2010年3月号に「極寒地で茶栽培は可能か?」,4月号に「極寒地における茶栽培と品種特性」というタイトルの記事を掲載しました.補足のページがありますので雑誌記事ともどもご覧ください.
その他の産地
現時点で私たちが把握している場所以外に,恐らくその何倍か何十倍の茶の木が存在していると思っています.平成16年の農林統計データでは,既知の場所の他,宮城県の亘理町,岩沼市,利府町,富谷町,山形県の山形市,天童市で茶の栽培が行われていることになっています.これらについては,具体的な場所は分かりません.ご存じの方はお知らせ頂けると有難いです.また,このデータを掲載していたWebページが現在アクセスできなくなっています.urlが変更になったと思い,いろいろ調べましたが,同じデータを見つけられていません.論文に典拠として明示したいので,これもご存じの方は教えて頂けると有難いです.
その他研究参考情報
正面玄関
現行版:2011年5月12日
改 版:2011年1月6日,2010年5月1日
初 版:2007年3月1日
メールアドレス:nmizunoアットマークaffrc.go.jp
※このページは自由にリンクしていただいてかまいません.連絡不要.