拡散係数を使わずに生物のランダム移動を表現する

論文: Yamamura, K,, Moriya S., and Tanaka K. 2003. Discrete random walk model to interpret the dispersal parameters of organisms.
掲載誌:Ecological Modelling 161, 151-157. [元原稿 170KB] The original publication is available at DOI: 10.1016/S0304-3800(02)00345-9


物体の移動を表現する際には拡散方程式を用いるのが普通である。たとえば1次元を移動する物体において,t 時点に場所 x に存在する物体の密度をn (x ,t ) とし,拡散係数を D, 瞬間消失率をδとすると

拡散方程式

しかし,これら拡散方程式は,ある意味でかなり怪しい。例えば私が徒歩でランダムに移動するとき1秒後に1キロメートル離れた場所に移動することはあり得ないのだが,上の拡散方程式によれば,そのような確率は非常に小さいながらも存在する。つまり絶対にあり得ないことを予言しているのである。これらの式はある意味で近似であり,近似が成立する場面では極めて有効であるが,場合によってはあり得ない予測を出してしまう。

このような問題を避けるためには,物体の移動が離散的に発生すると考えると良いであろう。いま1次元の x 軸上を生物がランダムに移動する場合を考えよう。1次元が等間隔のブロックからなっているとする。地点 x = 0 から M 匹の生物が移動を始めるとする。右のブロックへ移動する確率と左のブロックへ移動する確率を同じであると仮定し s/2 とする。また移動しないでそのブロックに定着する確率を d とし,定着した個体がトラップに捕獲される確率を c とする。するとブロック x に設置されたトラップに捕獲される個体数の期待値 Tx

1式............................................................................................(1)

ここに
2式............................................................................................(2)
3式......................................................................................(3)

両辺の対数をとると (1) 式は直線関係になる。

4式.................................................................(4)

この式をブタクサハムシ成虫の1次元の移動分散データに適用した結果,ブタクサハムシの移動はランダムウォークであり,ある場所にいるブタクサハムシが次の10mを移動する確率が0.906であると推定された(図1)。


拡散距離の図

図1.ブタクサハムシのトラップによる捕獲個体数.それぞれの距離で定着した個体の分布を示す (Copyright by Elsevier Science)。


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