ベイズ推定法の致命的な問題点: ベイズ推定法の正しい活用の仕方とは?

論文:Yamamura K (2016) Bayes estimates as an approximation to maximum likelihood estimates
掲載誌:Population Ecology 58:45—52
DOI: 10.1007/s10144-015-0526-x

ベイズ推定法による推定値の問題

ベイズ推定法という言葉はさまざまに異なる意味で用いられるため,議論に多くの混乱が生じている。問題を正しく把握するためには Bayes (1763) が行った推定法を特に「Bayes (1763) 流のベイズ推定法」として呼ぶのが妥当であろう。この Bayes (1763) 流のベイズ推定法は事前情報が存在しない場合に一様事前分布を仮定することを特徴としている。現代ではマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)に基づくソフトウエアを用いることにより, Bayes (1763) 流のベイズ推定法では複雑な推定問題も簡単に解決できそうに見える。しかし,Fisher(1922)によって指摘されたように,この Bayes (1763) 流のベイズ推定法には致命的な欠陥が存在していた。 Bayes (1763) 流のベイズ推定法ではいくらでも異なる推定値を捏造することができる。これが Fisher の指摘したベイズ推定法の問題点であった。本論文では,Bayes (1763) 流のベイズ推定法を用いれば,いかに簡単に推定値を正しく捏造することができるかが例示される。 Bayes (1763) 流のベイズ推定法では,どのように捏造された推定値でも「正しい」と見なすしかないのである。

最尤推定法の近似としてのベイズ推定法

Fisher(1922)は Bayes (1763) 流のベイズ推定法の問題点を指摘した上で, Bayes (1763) 流のベイズ推定法に代わる新しい推定法を提唱した。それが最尤推定法であった。ただし,複雑な問題の場合には Fisher の最尤推定法を適用することは困難となる。しかし,ある工夫を行えば,Bayes 流のベイズ推定法を用いて Fisher 流の最尤推定値を求めることができる。すなわち,事後分布が左右対称に近くなるような適切な変数変換法を用いてから Bayes 流のベイズ推定を行えば,その事後分布のメディアンを最尤推定値の近似値として活用することができる。そのような変数変換法は,事後分布の歪度がゼロに近くなるような Box-Cox 変換などを探すことによって試行錯誤的に見つけることができる。この変数変換法を使用することは「ジェフリースの無情報事前分布」を使用することと本質的に同等であるため,「事後分布が左右対称となるような変換後の事前一様分布」は「経験ジェフリース事前分布」と呼ばれる。

Fisher 流の信頼限界の計算

また,パラメーター値が変わればそのパラメーターの事後分布が平行移動するような変数変換スケール(平行移動スケール)の場合には,事後分布の分位点を Fisher(1973)流の信頼限界として用いることができる。たとえば2.5%分位点を下側2.5%信頼限界として用いることができ,97.5%分位点を上側2.5%信頼限界として用いることができる。平行移動スケールでは事後分布が左右対称になりやすいことから,事後分布の歪度がゼロに近くなるような変数変換法を用いれば,事後分布のメディアンを最尤推定値として用い,かつ,事後分布の分位点を信頼限界として用いることができる。


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