「検出下限」を正しく定義しよう

論文:Yamamura, K., Mano, J., Shibaike, H., 2019. Optimal definition of the limit of detection (LOD) in detecting genetically modified grains from heterogeneous grain lots.
掲載誌:Quality Technology & Quantitative Management 16:36—53   DOI:10.1080/16843703.2017.1347992

要約

「検出下限」という用語は非常にいい加減な意味で用いられることが多いようである。たとえば,何らかの不純物の混入を検出したいとき,その検出機器の検出下限が0.1%と記載されていたとしよう。このとき,0.1%以上の混入率のものは100%の確率で検出できて,0.1%未満の混入率のものは0%の率で検出できる,といった場面を想定するかもしれない。しかし現実はそう簡単ではないであろう。たとえ0.1%以上の混入率であっても100%の確率で検出することはできないし,0.1%未満の混入率でも少しは検出することができる。そこにはゼロイチで見分けられる「絶対的な検出下限」などは存在してくれない。正確には「混入率が〇〇%以上のときは△△%以上の確率で検出できる」という表現だけが可能である。したがって,私らが「検出下限」を述べるときには,この〇〇と△△の二つの値を明記してから用いるしかない。

つまり,「検出下限」は「そこに存在するもの」ではなく「私らが独自に定義して用いるもの」あるいは「私らが独自に構築して用いるもの」である。そのため「どのように定義するべきか」という問題が存在する。本論文では,その定義の仕方に最適な定義が存在することを示し,遺伝子組換え作物の混入を検出する場合の具体例でそれを示す。

遺伝子組換え作物の許容限界混入率を,たとえば仮に0.1%としよう。そして,混入率が0.1%以上の荷口(ロット)を95%以上の確率で却下するようにサンプリング検査法を構築することを考えよう。このとき,用いるべき検出下限を,たとえば「混入率が0.1%以上のときは95%以上の確率で検出できる」ように定義すればよいと一般には考えられてきた。国際規格ISOなどでもそのように記載されてきた。しかし,これは正しくない。検出に伴う誤差には(1)現場でのサンプリングに伴う誤差,および(2)実験機器での検出に伴う誤差,の二つが存在する。検出下限はこのうちの2番めの誤差にのみ関係する。そのため,「混入率が0.1%以上のときは95%以上の確率で検出できる」ように検出下限を決めたのでは,組換え作物の混入の検出確率は実際には95%よりも低くなってしまう。つまり,世の中にサンプリング誤差が存在するのであるから,このように検出機器の検出下限を決めると,リスク管理において必然的に危険な事態が生じてしまう。「検出下限」の定義を決める際には,サンプリングに伴う誤差と検出機器における誤差の両方を考慮した定義を用いなければならない。本論文ではその手法について具体的に示している。

電子付録はこちら



トピック一覧へ戻る