ウメ輪紋病を根絶するためには

論文:山村光司 (2020). ウメ輪紋病の緊急防除における防除範囲の妥当性.
掲載誌:保全生態学研究25:135—146   https://doi.org/10.18960/hozen.1913

根絶のためには伐採が必要

2009 年にウメ輪紋病がわが国で初めて発見され,農林水産省はそれに対する緊急防除を直ちに開始した。この病気はアブラムシによって媒介されるウイルス病であり,病徴が顕在化するまでに3 年程度の潜伏期を要するとされている。このウイルスを根絶するためには病気に感染した樹を完全に排除してゆく必要があるが,そのためには,病徴が確認された樹だけでなく,潜伏期の可能性がある周辺の宿主(病気に感染しうる樹)についても,伐採や移動禁止措置を行う必要がある。

根絶に必要な伐採範囲は,発見された病樹から半径607mの円内

2013 年以降のウメ輪紋病の緊急防除において半経験的に用いられてきた防除範囲の半径は500 m であった。アブラムシの非ランダム拡散を考慮したガンマモデルを用い,感染樹が発見された時点(3 年後)における周辺の感染確率を推定したところ,500 m 地点における感染確率は0.5%程度と推定され,この防除範囲の設定は妥当であったことが示唆された。また,防除範囲内の病樹を完全に伐採する場合に,病気の基本再生産数を1以下に保つのに必要な半径は607 m と推定された。今後にウメ輪紋病の「低発生地域」を構築する際にも,「周辺地区」として500 m 幅のバッファーゾーンを設ければ,「中心地区」を清浄に保つことができると期待される。


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