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C4植物のきほんBasic infomation of C4 plants update 2019.3.26

 日本の維管束植物は、約7500種(日本の野生植物、平凡社)とされ、その90%以上の植物は、C3植物です。C3植物は、光合成におけるCO2固定反応の最初の産物が炭素原子3個を含む化合物であることに由来します。一方、C4植物はC3植物が持つカルビン回路(C3回路)にCO2を濃縮する生化学的CO2ポンプを付加した光合成装置を持ちます。この光合成は酵素PEPcを使ってCO2を取り込み、次に炭素原子4個からなる酸、オキザロ酢酸の生産を行うこと(詳しくは「C4回路」を見てください)からC4光合成と呼ばれ、このようなC4光合成を行う植物をC4植物といいます。日本作物学会紀事84第4号P386−に公表された私の論文「日本国内に分布するC4植物フロラの再検討」では、現在の図鑑等の知見を使って、国内に合計11科91属419種のC4植物が分布することを明らかにしました。日本の維管束植物の5.6%(419/7500)を占めることになります。何かを発見した、解明した、のような派手な論文ではありませんが、C4植物に興味を持つ方、これからなんらかの手段で使ってみたいと思う方の手助けになればと思います。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcs/84/4/84_386/_article/-char/ja/ でダウンロード可能です。

 C
4植物は一般的に高い光合成速度と高い乾物生産能力を示し、特にに亜熱帯、熱帯において優勢とされています。生育が最も早い農業用植物12種のうち11種はC4植物であり、陸地における光合成の約20%がC4植物によって行われていると推定されています。しかしながら、これらC4光合成を行う作物(C4作物)-トウモロコシ、ソルガム、サトウキビなど-の欠点は低温に弱いので地球上の広範な地域では栽培できません(ただし、夏季数ヶ月間高温になる地域では栽培可).
 主なC4合成をする作物を挙げると、上記以外に、イネ科では、アワ、シコクビエ、トウジンビエ、ハトムギ、双子葉では、アマランサス、ホウキギなどです。C4写真館をご参照ください。
 現在の地球上のC4植物は、Sage(2016)によると、61の独立した系統が同定されており、19科約8100種の(イネ科約5000種、カヤツリグサ科1300種、真正双子葉約1800種、下記参照)から構成されています(詳細は下記表の太字)。研究が進めば、新たなC4植物が見つかり、少しずつその種数は増加しているようです。また、その割合は、地球上の植物を250,000種とすると、の3.2%を占めることになります。
  • 1999年に発刊された『C4 Plant Biology』 (ed by R.F.Sage)によるとC4植物は18科487属7600種(文献によっては10000種)とされていた。Sage(2004)によるとGisekiaをGisekiaceae(Gisekia科?)と独立させ、19科7500種とされていた。

    Subclass Family(科) Genus
    属数
    De novo lineages(新たな系統)とその系統に含まれる種数 Species
    (種)
    % of All C4
     Monocot
    単子葉
    Poaceae
    (イネ科)
    372
    321
    Aristida 288
    Stipagrostis 56
    Centropodia 4
    Chloridoideae 1596
    Eriachne 50
    Tristachyideae 87
    Andropogoneae 1228
    Reynaudia 1
    Axonopus 90
    Paspalum 379
    Anthaenantia 4
    Arthropoginae/
    Mesosetum clade 35
    Arthropoginae/
    Onchorachis clade 2
    Arthropoginae/
    Colaeteania clade 7
    Anthephorinae 286
    Echinochloa 35
    Neurachne+
    Paraneurachne 2
    MPC(Melinidinae/Paninicae/
    Cenchrinae) 889
    Alloteropsis 5
    -4600
    5044
    62
    Cyperaceae
    (カヤツリグサ科)
    28
    16
    Bulbostylis 211
    Cyperus 757
    Eleocharis ser.
    tenuissimae 10
    Eleocharis vivipara 1
    Fimbrystylis 303
    Rhynchospora 40
    1500
    1322
    16
    Hydrocharitaceae
    (トチカガミ科)
    1
    2
    Hydrilla 1
    Egeria 1
    1+
    2
    <0.1
    Total Monocot 3 401
    339
      〜6000
    6368
    78
    Dicots
    双子葉              
    シソ目
    Acanthaceae
    (キツネノマゴ科)
    1 Blepharis 80 15 80
    15
    3
    ナデシコ目Aizoaceae
    (ハマミズナ科)

    Sesuvioideae
    (Cypselea 1
    Sesuvium 1+
    Trianthema 17
    Zayleya 6)
    30 0.4
    ナデシコ目
    Amaranthaceae
    (ヒユ科)
    56
    50
    Aerva 4
    Alternanthera 17
    Amaranthus 90
    Gomphrenoids138
    Tidestromia 8
    以下は以前はアカザ科とされた属

    Ariplex 180
    Bienertia 1 3
    Camphorosmeae 24
    Tecticorrnia 2
    Caroxylonae 157
    Salsoieae 153
    Suaeda 40
    〜800
    815
    10
    キク目
    Asteraceae
    (キク科)
    8 Coreopsideae 41
    Flaveria 7
    Pectis 90
    150
    138
    1.7
    目名不明Boraginaceae
    (ムラサキ科)
    1 Euploca
    (=Heliotropium sect. orthostachys)
    6+
    130
    1.6
    アブラナ目Brassicaceae
    (アブラナ科)
    1 Brassica 5+
    ナデシコ目Caryophyllaceae
    (ナデシコ科)
    1 Polycarpaea 50
    20
    0.2
    キントラノオ目
    Euphorbiaceae
    (トウダイグサ科)
    1 Euphorbia 250
    350
    4.3
    ナデシコ目Gisekiaceae
    (ギセキア科)
     1 Gisekia 1  5
    1
    <0.1
    ナデシコ目Molluginaceae
    (ザクロソウ科)
    2
    1
    Glinus 1+
    Mollugo 3+ 2
    4+
    2
    <0.1
    ナデシコ目Nyctaginaceae
    (オシロイバナ科)
    3
    2
    Allionia 2
    Boerhavia1+ 40
    Okenia 2
    5+
    42
    0.5
    ナデシコ目Polygonaceae
    (タデ科)
    1 Calligonum 80 80 1
    ナデシコ目Portulacaceae
    (スベリヒユ科)
    2
    1
    Anacampseros 30
    Portulaca 40 100 
    70
    100
    1.2
    シソ目Scrophulariaceae
    (ゴマノハグサ科)
    1  Anticharis 14 4 14
    4
    <0.1
    ハマビシ目Zygophyllaceae
    (ハマビシ科)
    3
    2
    Tribuloideae 37
    Tetraeana 1
    〜50
    38
    0.5
    Total Dicots 16 86
    79
      〜1200
    1777
    22
    Total C4 19 487
    418
      〜7500
    8145
    100

    参考文献 ;「光合成」(朝倉書店), 「光合成と物質生産」1980, 農学大事典(養賢堂)
    Edwards and Walker 1983 C3,C4:mechanism, and cellular and environmental regulation, of photosynthesis
    , C4 Plant Biology 1999 ed by Sage (Academic press), Sage 2004 The evolution of C4 Photosynthetis New Phytologist 161: 341-370, 太字:Sage 2016 The C4 plant family portrait でアップデート

C4植物が、分類学上どのように位置づけられるのかを考えてみました。
ダーウィンが「種の起源」を発表して以来、生物は進化するという考えに基づいて、生物をかたちが似たものに分 けて体系化する方法がとられるようになりました。これを自然体系(自然分類)といいます。分類階級は上位のものから、「kingdom:界(かい)」「division:門(もん)」「class:網(こう)」「order:目(もく)」「family:科(か)」「genus:属(ぞく)」「species:種(しゅ)」の順となり、分類階級が上のものほど、より広い共通点や相違点でくくられています。
C4植物は、植物界に属し、植物界は、被子植物門、イチョウ門、シダ植物門など9つの門に分かれていますが、裸子植物、シダ植物やコケ植物には、C4光合成を行う植物は報告されておらず、被子植物門のみに存在します。APG体系の第3版に基づく被子植物の系統関係を下記に示しました。APG体系は、近年DNAの塩基配列に基づく系統解析技術が進み提案された体系で、1998年Annals of Missouri Botanical Gardensに発表されました。現在はその改訂版APGIII(2009)による体系(下記)がよく使われています。
 下記の図の中でC4植物が含まれる目を赤字で示しましたが、見事に分散しており、APG分類においても、系統発生の過程で多元的に進化したと考えられる説(Moore 1982)を支持しているようにみえます。C4植物は、単子葉類と真正双子葉植物に含まれており、単子葉植物では、イネ目(イネ科、カヤツリグサ科)とオモダカ目(トチカガミ科)に、真正双子葉植物では、キントラノオ目(トウダイグサ科)、ハマビシ目(ハマビシ科)、アブラナ目(フウチョウソウ目)、ナデシコ目(ギセキア科、ヒユ科、ナデシコ科、ザクロソウ科、オシロイバナ科、タデ科、スベリヒユ科)、シソ目(キツネノマゴ科、ゴマノハグサ科)、キク目(キク科)など、(ムラサキ科は目名不明)計8目に存在します。

*ちなみに中学校に理科で習ったかもしれませんが、裸子植物と被子植物を合わせて種子植物、シダ植物と種子植物を合わせて維管束植物といいます。


C4植物の殿堂 (2019.3.25 update)
Sage氏(2016)のレビューに、C4植物の中で、殿堂(Hall of Fame)を選出するという企画がありましたので、ここで紹介したいと思います。ふざけた企画のようですが、掲載されているので、それだけ著者の信頼が厚いということでしょう。種の解説文は、正確ではありませんが、論文の日本語訳そのままです。写真館のページにも下記の左の番号を記載しました。
栽培種 整列させて栽培部門
(1)Zea mays(トウモロコシ):世界で最も広く栽培されているC4作物、歴史的、社会的、経済的なインパクト大
(2)Sorghum officinare(ソルガム):穀物として2番目に重要なC4作物、バイオエネルギーの候補、最初にゲノム解読がなされたC4植物
(3)Saccharum officinarum(サトウキビ):砂糖とバイオエタノールの主な原料
(4)Pennisetum glaucum(トウジンビエ):4番目に重要なC4作物、キビの仲間の中で最も生産量が多い
(5)Micanthus×giganteus(オギススキ):次世代のバイオエネルギー作物のリーダー
(6)Panicum virgatum(スイッチグラス):次世代のエネルギーキビ属、主要な飼料
栽培種 芝と飼料部門
(7)Chloris guyana(ローズグラス):低緯度地域で広く普及している飼料
(8)Cynodon dactylon(ギョウギシバ):主要な飼料、芝生、世界の最悪の雑草の一つでもある
(9)Melinis minutifolia(トミツグラス):成長が早い牧草、主要な侵入種でもある
(10)Panicum maximun(ギニアグラス):広く栽培されている生産性の高い牧草、低緯度地域の雑草でもある
(11)Pennisetum purpureum(ネピアグラス):バイオマスという意味で最も生産性の高い栽培植物、バイオエネルギー作物として開発されており、侵入性も高い
(12)Zoysia japonica(ノシバ):暖かい地域で芝生やゴルフコースの人気の高い種
侵入種および雑草部門
(13)Cyperus rotundus(ハマスゲ):しばしば世界の最悪の畑雑草として注目される
(14)Digitaria sanguinalis(オニメヒシバ):世界の最悪の雑草トップ10の一つ、45度より低い緯度のガーデナーたちにとってよく知られた厄介者である
(15)Echinochloa crus-galli(イヌビエ):世界の圃場の雑草としてトップ5、イネの類似種、マイナークロップ
(16)Eleusine indica(オヒシバ):最もシビアなC4の雑草(Brown1999)
(17)Imperata cylindrica(チガヤ):攻撃的成長、野火をひきおこすため、在来種にとって大きな脅威となる(しかしながら、日本においてはチガヤは在来種)
(18)Sorghum halepense(セイバンモロコシ):非常に攻撃的な雑草、しばしば世界の最悪は雑草のトップ5に入り、牛にとって毒となるシアン化物を産生する
(19)Salsola kali(ハリヒジキ):映画や歌におけるC4のスター(転がる雑草として移動)
(20)Tribulus terrestris(ハマビシ):マキビシと呼ばれ、タイヤ、足にとって致命傷となる
注目すべき野生種部門
優占する生物群ー芝とスゲ
(21)Andropogon geradii:北アメリカにおいて草丈の高い草原の優占種
(22)Bouteloua gracilis:北アメリカにおいて草丈の低い草原の優占種
(23)Cyperus papyrus:アフリカの沼地の優占種、古代の紙、パピルスの原料
(24)Spartina anglica:ヨーロッパ沿岸の塩生の沼地の優占種、アメリカとヨーロッパの雑種から派生
(25)Themada triandra:セレンゲティの草食動物の食べ物、熱帯草地で広く分布している
優占する生物群ー双子葉
(26)Atriplex confertifolia:西方の北アメリカの半乾燥ステップの一部において優占種となる塩生の低木であり、乾燥、塩生地域生まれのAtriplexの低木の代表種
(27)Haloxylon ammodendrum:中央アジアと北アフリカの主要な低木種、その深い茂みは、シルクロードを旅する人にとって燃料となった。
記録保持者
(28)Echinochloa polystachya:全ての植物の中で最も生産性が高い
(29)Euphorbia olowaluana:最も大きなC4の木(10mまで)ハワイ産
(30)Euphorbia herbstii:ハワイ産の下層の樹木、C4光合成が影の多い森にも適応できることを示している
(31)Amaranthus palmerii(オオホナガアオゲイトウ):外気において世界最高の光合成速度(325mol-1CO2条件において80μmolm-2s-1)を記録、雑草、マイナーC4作物の重要な属
(32)Portulaca oleacea(スベリヒユ):CAM型光合成を持つ唯一のC4種、広く分布する雑草であり、発展途上国においては野菜、クランツ構造は裸眼でも見ることができる。おそらく非農家によってもっとも引っこ抜かれたC4雑草
(33)Orinus thoroldii:世界の最も標高の高いところ(5200m)に分布するC4植物
研究用のスターたち
(34)Alloteropsis semialata(ハネキビ):C3、C3-C4中間種、C4種を含む
(35)Atriplex rosea:C3植物と交雑するC4植物として知られている
(36)Blenertia sinuspersici:一つの細胞で行うC4植物、6種が研究されてる
(37)Cleome gynandra(フウチョウソウ):シロイヌナズナに近いC4の遺伝的モデル植物
(38)Eleocharis vivipara:水上ではC4光合成、水中ではC3光合成、最も研究されている両性のC4植物
(39)Flaveria brownii:最も原始的なC4種として知られる、C4の進化を研究するモデル植物のリーダーの一つ
(40)Setaria viridis(エノコログサ):C4植物の遺伝的モデル、主要な雑草でもある